家族と虐待

私は家族からの虐待にあった方や、家族を虐待してしまうという方など、様々な家庭内の暴力にまつわるお話をうかがってきました。

家族内で虐待されたという方が成人して、その傷つきをそのままに苦しんで生きている方、心の内では血や涙を流し続けながらも外ではできるだけ「普通」に見えるように働いている方・・・
手をあげたくないのにカッとなって子どもに手をあげてしまう方、怒鳴り散らしてしまう方、ご自分のお子さんに危害を加えてしまうような衝動にかられる方・・・

虐待にあった方は家族を憎みつつも、その呪縛から逃れられず、フラッシュバックなどで何度もその暴力の記憶を体験し続ける方もいます。
虐待してしまうご家族は、自分でもどうしようもない衝動と怒り、自責感、子どもを傷つけて自らの手で失うことに怯え続けたりされています。

私の一番最初の臨床現場が児童養護施設だったこともあり、施設に来るまでに暴力を受けながら生活していた子どもたちと話すこともありました。子どもたちからは、やり場のない怒りや「自分が悪かったからしょうがない、親は悪くない」と、「自分が変わればきっと親に愛される」という思いを子どもたちから感じつつ、時を共にしました。その子たちに面会にくる親御さんにお会いしたこともありました。子どもたちは面会が終わって施設を去っていく親御さんの後ろ姿を窓からじっと見ている場面などもありました。

虐待をうけた方々は、「一生許さない」「恨んでも恨み切れない」「親と思っていない」など、怒りは底知れず、同時に恐怖や不安も計り知れないくらい抱えています。人と接する上でも、絶えず不信感や警戒心がぬぐえず、心を開けず、ずっと孤独に過ごされる方もいらっしゃいます。人とうまくつながれない中、一生一人で生きていくことや死に引き寄せられる思いの中で生きていったりします。

虐待してしまう親御さんの多くは、ご自身も何らかの暴力の被害にあっていたりします。また、ご自身が虐待を受けて成長してきた中で「親としてのお手本」を知らないままの状態で、どう接していいかわからず苦しみ続けていたりされています。「親としてどうあるとよいのか」を考えるほどに、ご自身の虐待を受けた過去の記憶に立ち返ることになったりします。

家族は距離が近すぎて、あまりに容易に感情はぶつかり合ってしまいます。毎日顔をあわせる中では、感情的になりすぎてしまうことがあります。家族はどうしたって互いしかいない中で、選択することはできない中で、どう家族や自分と向き合っていくか。

人は生涯苦しむのかもしれません。家族への憎しみと愛を巡って、それを互いにうまく伝えられない中で。

どうか、とりかえしのつかないことになる前に、虐待にあっている方も、虐待にあっていた方も、虐待をしてしまう方も、誰かに相談してみてください。苦しみながらも一生懸命生き続けているご自身やご家族を、どうぞ守ってあげてください。